キーマンインタビュー
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ASC Fine Wines
首席執行総裁 渋谷 善彦 氏
「信頼」を胸に新たな価値を提案していく
サントリーの子会社の一つであるASCファインワインズ。今年で創業24年を迎える中国有数のファインワインの輸入会社だ。初の日本人トップとして2017年から同社を率いている渋谷首席執行総裁にお話を伺った。
当社は中国本土、香港、マカオにてワインの輸入販売を手掛けています。16の国々の100以上のワイナリーと正規代理輸入の契約を締結し、卸店、小売店、業務店、法人、個人などさまざまな層の方に販売しています。大都市においてはレストランやホテルに直接納入していることも特徴の一つです。ワインの取扱が約9割を占めていますが、エビアンや日本酒、梅酒なども一部手掛けています。
当社は1996年に創業し、今ほど中国においてワインがメジャーではなかった時代から中国の高級ワイン文化を支えてきた草分け的な企業として、業界におけるパイオニアの役割を果たしてきました。創業から約15年間はマーケットが黎明期だったこともあり売上高は右肩上がりでしたが、現在はマーケットが停滞しているだけでなく、ワイン輸入会社が約6,000社存在していると言われているほど過当競争の状態です。中国人は流行に敏感ですから盛衰も激しく、そのうちの約1,500社ほどが毎年興亡を繰り返しています。中国では一般の方のワインに対する知識水準がそれほど高くないことを良いことに、OEMで生産させたワインに高級に見えるラベルを貼って高額で販売している事例が散見されるなど、真面目に世界の一流ブランドを扱ってきている当社としては心苦しく感じることがあります。ここ数年はマーケットが伸び悩んでいるとはいえ、中国は消費者層の厚さが特徴的です。中国での輸入ワインの歴史というのはわずか20年強に過ぎませんから、感度の高い上海在住者のみならず、さらなる層を開拓していくことで高い成長が期待できます。サントリーグループ全体としても、中国市場は海外において量的にも質的にも戦略的に最も重要と言っても過言ではありません。
信頼こそが最大のアセット
創業以来長らく西洋人が経営トップを務めていましたが、2010年にサントリーが買収したこともあり、2017年より初の日本人トップとして私が経営を行っています。現在4年目を迎えましたが、やはり内外ともに苦労が絶えません。内部環境に関しては、仕事の精度やコンプライアンスなどさまざまな面において、スタッフの質が日本で要求される水準には達していないと感じています。就任当初には整っていなかった人事制度や給与システムを整備し、公平性と柔軟性を担保した上で如何に目標達成に向けて取り組んでもらうかということに長らく注力してきました。この点についてはまだ途上にありますし、これからも弛むことなく改善していく必要があると認識しています。外部環境に関しては、支払いや契約内容などをはじめとするルールがなかなか遵守されていない状況に加え、巷間よく言われていることですが変化のスピードが非常に早いです。この国での半年や3カ月は日本の1年に相当するのではないかと感じるほど変化が早いですから、日本の細かい手順をそのまま踏襲していたのではとても太刀打ちできません。朝令暮改をためらうことなく、スピード感を持った責任者に業務を基本的には一任し、然るべき時にブレーキをかけるのが私の役割であると考えています。
ワインというのは多品目であることが宿命です。さまざまな種類のワインがあって初めて価値があるだけでなく、ぶどうの収穫から醸造を経て瓶詰めされるまでのヴィンテージ(過程)は毎年変化しています。その年ごとにワインの味やタイプが異なるため、そうした背景についてもお伝えした上で販売していく必要があります。広告を投下して1品目を徹底的に集中して販売していくということは、ワインの特性上困難です。そこで重要なのが、ASCの企業価値や当社への信頼感を如何に向上させていくかということです。メーカーの方が自社製品の質を高めることに注力されているように、ワインの流通に携わっている当社としても、安心で高品質なワインの提供を通じた当社ブランドに対する信頼感を醸成していくことが欠かせないと認識しています。お陰様で、5つ星国際ホテルグループや高級レストランなどで当社のワインをお取り扱い頂いているということは大きなアセットになっています。一般の消費者の方にとっても、24年間続いてきた当社やサントリーグループに対する信頼のもとで支持頂いていると実感しています。
業界のパイオニアとしての使命
中国で積極的に取り組んでいることの一つとして、若者の需要喚起が挙げられます。中国人の消費者は非常に多様化していて、こと上海に関してはワインに求める質もかなり上昇してきています。その一方で、ワイン市場の多くは未だに30代以上の富裕層が占めています。まだまだ若者への浸透が進んでいませんので、若者をターゲットとした製品の開発や輸入ということに特に注力しています。その一環として、WSET(ワイン&スピリッツ・エデュケーション・トラスト)というワインなどの資格を認定する世界最大の教育機関のコースを当社が中国で最初に開催するなど、ワイン教育にも力を入れています。中国はWSETの受講者数が世界で二番目に多いなど、ワインに対する知識欲が高い方が非常に多くいらっしゃいます。若者をはじめとした、そうした重要な潜在顧客に如何にアプローチしていくかが今後の鍵となってきます。業界のパイオニアなればこそ、事業規模や培ってきた歴史に安住することなく、新たなマーケットを開拓していく役割を担っていく必要があると考えています。先述した若い消費者に新たにワインを経験してもらうという取組みは、サントリーグループがかつて日本で担っていた役割でもあります。日本におけるワインの知名度がほとんどなかった1970年代に、「金曜日はワインを買う日。」というプロモーションを長らく展開し、ワインを購入して金曜日を小さなハレの日にしようと提案してきました。ここ中国においても同様に、手法にこだわることなく、新たな価値を発見し新たな体験をして頂くことに我々の存在意義があると考えていますので、そのような提案をしていくべく引き続き努めて参ります。
私は1990年にサントリーに入社して酒類の営業やマーケティング、ワイン調達などを経験した後、2011年からフランスへ赴任し、シャトーやワイン商の管理に従事しました。1998年から一貫してワインの業務に携わっています
北京支店でのチームビルディングの際の一枚です。大きなステージに派手な演出という、中国式の宴会にもようやく慣れました
PROFILE
プロフィール
Yoshi Shibuya
1967年兵庫県生まれ。1990年早稲田大学卒、同年サントリー株式会社入社。2011年よりフランス赴任。ボルドーやパリでサントリー所有のワイナリーやワイン商の管理に携わる。2017年4月に上海に異動。ASC Fine WinesのCEOに就任、現在に至る。
上海などの1級都市では知識意欲が旺盛な富裕層が増えています。近年は特にブルゴーニュワインが人気です。
旅とグルメはライフワーク
上海に赴任以降、妻の実家で預かってもらっていますが、コロナ禍の影響で半年間会えていません。
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