キーマンインタビュー
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日本貿易振興機構(JETRO) 上海代表処
主席代表/所長 水田 賢治 氏
2003年に設立された独立行政法人で、海外74箇所、国内48箇所のネットワークを持つJETRO。上海事務所の新所長として日中貿易及び投資の促進支援に尽力されている水田所長に、これまでの経歴や今後の抱負について伺った。
9月19日付でJETRO上海事務所の所長に就任した水田と申します。私は1999~2006年まで上海で1回目の駐在を経験し、その後、11年間の東京本部での勤務を経て2017年から3年間大連事務所の所長を務め、今年9月より正式に上海に着任しました。中国での駐在期間は計10年になりますが、上海には15年間や20年間など長期にわたって中国に駐在されている方もいらっしゃるので、自分は大したことないと思います。私が中国を最初に訪れたのは29年前です。当時は「ニーハオ」、「謝謝」以外は中国語を全く話せませんでしたが、一人で北京、新疆、東北三省など各地を1カ月かけて巡りました。カルチャーギャップを感じながらも、中国という国に非常に好奇心を抱きました。その後、JETROへ入構してからは駐在以外でも中国に関係のある業務にも従事し、途中空白期間はありますが、約30年にわたって中国の変化を目の当たりにしてきました。
前任地の大連と上海は、日系企業が多いという共通点があります。一方で、その数は上海の方が圧倒的に多いものの、大連では外資系企業の大半を日系企業が占めているため、日系企業の存在感が圧倒的なのに対し、上海には日系企業以外にも欧米企業なども数多く進出している点が異なると感じます。JETRO上海の管轄地域は、上海市の他に江蘇省、浙江省、安徽省となっていますが、この華東地域には数多くの日系企業が進出しており、私自身、1社でも多くの日系企業の皆様のところに直接伺いたいと思っております。
JETRO上海事務所の活動
当構は、進出企業支援センター、経済情報・機械環境産業部、農林水産・食品部、市場開拓・サービス産業部、知的財産・イノベーション部、対日投資部、総務・企画部の部署から構成されています。進出企業支援センターは、新たに中国ビジネスを展開する日本企業や、すでに中国に進出している日系企業の皆様からのご相談に対応しております。JETRO上海事務所には、日本企業の中国への投資、現地企業との合弁・技術提携、貿易などにかかる問題解決をサポートするための『海外投資アドバイザー』が2名常駐しています。
海外投資アドバイザーは、日々、投資・貿易に関わる現地制度や産業情報などの収集・提供を行いながら、日本企業からの様々なご相談に面談・電話・メールなどで対応しています(最近はオンラインでのご相談も受け付けています)。相談は無料ですので、是非お気軽にお問い合わせ願います。
私が前回上海に駐在していた2000年代前半は、日本から華東地域への進出に関する相談がとても多かったですが、中国に進出している日系企業も業種や進出形態などが多様化していることもあり、最近は相談内容も様々です。経済情報・機械環境産業部は、日本企業にとって有益な華東地域の様々な情報について、「ビジネス短信」という形でJETROのホームページを通じて、ほぼ毎日発信しています。環境問題に関する規制が近年は強まっていますので、中国の環境規制に関する情報発信にも注力しています。農林水産・食品部は、日本からの農林水産物の中国向け輸出サポートや、中国企業とのマッチングを行っています。昨年、一昨年の中国国際輸入博覧会では、日本の食品関連企業の出展をJETROが取りまとめましたが、日本の食品関連ブースはとても人気がありました。今年の輸入博に出展される食品関連の日系企業は121社・団体の予定で、昨年の108社・団体と比べるとコロナの逆風下でも増えています。市場開拓・サービス産業部は、食品以外の製品に関するマッチングの場を提供しています。なかでも、中国側の関心が高いのは介護分野です。9月に南京にて開催された老齢博では、JETROが日系企業23社を取りまとめさせて頂いてブースを出展しました。また、中国ではゲーム関連も人気を集めていて、日本のゲーム会社に対して中国企業が投資をして開発を支援するといった話もあります。知的財産・イノベーション部は、知的財産保護の取り組みや、日中両国のイノベーション企業のマッチングの場の提供などを行っています。対日投資部では、中国企業の日本進出のサポートを行っています。例えば2019年度には、AI技術を用いたソリューションを展開する中国企業の日本進出の支援を行うなど、中国の優良なイノベーション企業の発掘活動を行っています。
次の時代に求められる役割とは
コロナ禍で帰国した日系企業の駐在員の皆様もその多くが上海に戻られており、大分正常化しつつあると感じています。その中で、変化の早い中国においてJETROが如何にして日系企業の皆様のお役に立てるかということについては自問自答を繰り返しています。かつては現在ほど中国内の移動も便利ではありませんでしたし、情報も少なかったので、例えば自分が浙江省で見聞きして書いた記事に対する反響などを日本にいらっしゃる方から直接いただくということが多々ありました。ですが、現在は中国社会が様々な意味で成熟していますし、日系企業も中国に進出してそれなりの時間が経っていることもあり、いろいろな経験値を積まれておられます。そういった状況の中で、JETROは、日系企業の皆様が中国において何を必要としているかということを理解してサポートさせて頂くためにも、常に時代の先頭を走っていなくてはならないと思っています。そのためにも、管轄地域である上海市、江蘇省、浙江省、安徽省に留まることなく、成都や深圳など気になる地域があれば直接足を運び、より大きな視点に立って上海から中国全体を俯瞰していく必要があると感じています。様々なことを吸収して、多くの日系企業の皆様のお役に立てるようにすることが、私たちの役割であると認識していますので、試行錯誤しつつ引き続き努めて参ります。上海駐在は14年ぶりですが、街中で上海語を耳にすることがめっきり減ったと感じています。車のマナーが非常に向上していることにも驚かされました。安心して横断歩道を渡れます
昨年の上海輸入博の一コマ。JETROが取りまとめた『食品・農産物パビリオン』において、列に並ぶ来場者。日本の『食品・農産物パビリオン』は多くの来場者が足を止め、日本の食品に対する関心の高さを伺い知ることができました
PROFILE
プロフィール
Kenji Mizuta
1992年日本貿易振興会(当時)入会。99年~06年は上海へ駐在。この7年2カ月は現時点でもJETROの中では海外駐在最長記録。その後、11年間東京本部で勤務。17年より大連事務所所長を経て、今年9月より現職。これまで中国において「知的財産保護事業」、「高齢者関連事業」を自ら立ち上げた。
大学生時代の1991年に初めて中国を訪れました。当時は「ニーハオ」と「謝謝」しか話せず、中国で初めて覚えた中国語は「没有」。街を歩いていると、とにかくジロジロ見られました笑。
1回目の上海滞在
2020年9月に出席した無錫のイベントで中国語で挨拶しました。勿論、原稿を見ながらです。中国駐在は通算で10年を超えましたが、中国語が上達しておらず、しっかりやっておくべきだったと今更ながら後悔。
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