キーマンインタビュー

事業改革の転換期に 

「電子商取引」の流れに乗り

新たなビジネスモデルを構築

1895年に中国進出し、100年以上の関わりがある精工表貿易（上海）有限公司。ここ数年で隆盛する電子商取引への同社の取り組みについて伺った

中国ビジネスのプロとして入社

 私は２０１６年6月1日にセイコーウォッチ株式会社アジア営業部に入社し、同年8月1日に現職へ出向、上海に赴任しました。これまで中国ビジネスのプロとして、日本とは異なる市場の中でゼロからの事業立ち上げを経験してきました。最初に入社した日本たばこ産業株式会社（ＪＴ）では台湾・台北、香港に駐在しアジア地域のビジネス・マーケティングを担当。２００２年に中国流通のプロとして、日系企業に代わりマーケティングやマーチャンダイジングの受託を請け負う会社を設立。その後は、大正製薬株式会社で華南地区における「リポビタンＤ」の販売業務、カルビー株式会社では中国事業立ち上げのメンバーとして、康師傅控股有限公司との合弁会社設立から解消まで参画し、現職に至ります。１９９０年以降はずっと中国圏での事業に関わり続けています。

　セイコーは１８８１年に創業し、95年に中国に掛時計の輸出を開始。１９０５年には上海と香港でドイツ系時計メーカーの販売代理を行うなど、中国とは百年以上の付き合いがある会社です。弊社は中国においても高齢層を中心に「商品の品質が良い時計ブランド」というイメージが持たれています。しかし近年はスイス系ブランドのほか、日系ブランドも台頭してきており、弊社の良質な時計を中国の方にどのようにご購入いただくかが課題でした。

　中国において「良い物が必ず売れるとは限らない」大事なのは売り方だと感じていました。２０１２年からのカルビーに在籍中は、阿里巴巴集団（アリババ・グループ）との電子商取引（Ｅコマース）を企画し、天猫（Ｔモール）国際版に、食品メーカーとして初の旗艦店をオープンしたこともあり、セイコーでは中国事業の責任者として、Ｅコマース事業を開拓することになりました。

中国の「Eコマース」のスピード感

 北京五輪や上海万博を経て、中国という場所が製造拠点から巨大な市場に変わり、経済の成長が緩やかになった２０００年代後半から10年前半。流通コストが高騰する中、アリババ･グループの急成長もあり、販売形態も変化していきました。14年頃からはインターネットを介した流通の動きが活発になり、それまで店頭で購入していた商品が、自宅でスマートフォンを通じて、タップひとつで家まで届く仕組みになりました。中国でのＥコマースは独特な、そして急速な成長を遂げています。

　取材日は11月11日の「光棍節」ということもあり、Ｔモール国際版に非常に多くのお客様からアクセスしていただきました。日系企業が中国でのＥコマースへ参画する理由の一つに、アリババ・グループから情報提供されるビッグデータがあります。商品を閲覧した方や購買された方が、どこから買ってくれたのか、どの商品を買ってくれたのかが、リアルタイムで更新されていき、商品の売れ筋や今後の販促に重要なトラッキングデータを、時間のロスなく手に入れることができます。

　このスピード感は日本にはなく、中国で商品を売っていくには時代の変化を即座に読み解き、この非常に速い流れに乗る必要があります。誤解を恐れず正直に申し上げてしまうと、日本のＩＴビジネスのプラットフォームは中国よりも遅れています。Ｅコマースの流れに乗り遅れる人や企業は、中国でのビジネスチャンスを失うのではないでしょうか。現在の中国における日系企業は、事業改革の転換期の真っ只中にいるといえます。

個人の力を組織の力へ

　今後のビジョンに関しては、経営者として「ビジネスモデルの構築」、つまり儲かる仕組みを作ることが必要になると考えています。ＴモールをはじめとしたＥコマースは中国で大きなビジネスチャンスですが、このビジネスに乗った場合に、経営者にどのようなコンセプトがあるのか、どのように儲けていくビジョンがあるのか、という点が重要になります。「ビジネスモデルの構築」と同じく重要なのが「スピード感」です。いかにスピードを速めるかは、より多くの人が迷わず業務にまい進することで達成できます。すなわち「個人の力を組織の力へ」拡大させることです。

　現地スタッフとの中国語会話などのコミュニケーションは私の得意分野です。人とコミュニケーションを取り、影響を与えることで、ひとりではできないことも、経営者として方向を決めて、集団が同じ目的意識を持てば、スピード感のある仕事ができます。ビジネスにおいて、過去の延長線上に未来はないと思っているので「誰もやったことがない正しいことを、誰よりも早く行う」という姿勢を持ち続け、全員で一丸となって突き進んでいきたいです。

「個人の力を組織の力へ」という自身のモットーのもと、発展する電子商取引（Ｅコマース）の早い流れに乗り、新たなビジネスモデルを構築するのが私の役目。一丸となって突き進んでいきたいと思います。

PROFILE

精工表貿易（上海）有限公司

董事長兼総経理

吉村 等氏

1962年、愛知県出身。86年慶応義塾大学商学部卒業後、日本たばこ産業（JT）入社。90年から台湾・台北、香港に駐在し現地マーケティングを担当。2002年に中国国内のビジネスコンサルティングやマーケティング活動を行う会社を設立し、その後03年に大正製薬株式会社、12年にカルビー株式会社に転職し、現地合弁会社の設立と解消業務を担う。16年8月よりセイコーにて現職。